これさえ聞いときゃ間違いない!今日の1曲

聞くものに悩んだらこれを聞け

【78曲目】Duquesne Whistle (Bob Dylan,2012)

さてようやくこの「僕と振り返るボブ・ディランの歩み」シリーズも最終回です。長かったですね。今回は現時点で彼の最新アルバムとなります2012年の「Tempest」より「Duquesne Whistle」を。今作は前作よりさらにオシャレで聴きやすく、Wilcoの「Yankee Hotel Fox Trot」やBeckの「Modern Guilt」をよりブルージーに仕上げたような風になっております。ところで、この手の音楽を一括りにして呼べるような総称みたいなのって何かあったりするんでしょうか。漠然とインディロックと言っちゃえばそれは包括範囲が広すぎるし、インディの中でももはや一つの類型だと思うんですよね。そういった現代的で数も少ない一つの類型にセルフプロデュースでキャッチアップしていくディランの感覚には驚かされます。もし彼の現状がお粗末なものであれば、もしかするとノーベル賞の受賞も無かったのかもしれません、とまで言うと少し強引でしょうか。ただ、よく言われることでしょうが、彼は過去の栄華のご威光で懐メロ商法をするような、才能の枯れた過去の人ではありません。常に良質なサウンドを提供し続ける、第一線のミュージシャンです。今後もより洗練されたサウンドを我々に届け続けてくれることでしょう。

 

Tempest

Tempest

 

 

【77曲目】Beyond Here Lies Nothin' (Bob Dylan,2009)

10月16日からスタートした「僕と振り返るボブ・ディランの歩み」シリーズですがとうとう次回でお終いです。いや長かったなー。元々は1週間ぐらいで終わるやろと思ってましたが10日以上かかった。まあこういう感じで、有名なんだけど実は聞いて来なかったミュージシャンの歩みを概観するみたいなの今後も良いかもしれない。少なくともベストアルバムだけ聞いてはい終了、よりは実りある気はします。さて前置きがまたまた長くなりましたが、2009年のアルバム「Together Through Life」より、アルバム開幕曲でもあります「Beyond Here Lies Nothing」でございます。タイトルからして既にかっこいいです。この一言ですべて伝えきるセンスがある限りディランは多分ずっと大丈夫です。この曲に限らず、タランティーノ映画の冒頭とかで流れていても違和感のないような、バイオレンスの香りとオシャレな音像の奇妙な同居がやけに気持ち良い、近年の彼の作品群の一つの金字塔と言ってもよいような抜群の完成度を全編通して実現している大名盤です。確かに初期の彼の作風とはまるで違っていますが、これはこれとして完成しております。強くオススメできる1枚ですね。

 

トゥゲザー・スルー・ライフ(初回生産限定盤)(DVD付)

トゥゲザー・スルー・ライフ(初回生産限定盤)(DVD付)

 

 

【76曲目】Love Sick (Bob Dylan,1997)

80年代のDylanに特に聞くものはないと前回言いましたが、正直に言うとそれはミスでした。89年のアルバム「Oh Mercy」もなかなかの聞き応えのあるものでございまして、そのプロデュースを手掛けたのは、U2等も手掛けていたダニエル・ラノワですが、今回の「Love Sick」を含む「Time Out Of Mind」もまた彼のプロデュースによるもので、いきなり一気に垢抜けてビビりました。以降のオリジナルアルバムでは、このダニエル・ラノワが示した方向性を基本的に踏襲しつつ、かっての彼には受け入れられなかったであろう、都会のオシャレなカフェで流れていてもマッチしそうな、というと悪意があるような言い方にも取られかねませんが、非常にオシャレで聴き心地のよい作品を重ねていくことになります。80'sの流れにはうまく乗れなかった彼ですが、来るべきインディポップ全盛にまた唯一無二の存在感を発揮させそうな、そんな予感の漂う素晴らしいアルバムです。

 

 

タイム・アウト・オブ・マインド(紙ジャケット仕様)

タイム・アウト・オブ・マインド(紙ジャケット仕様)

 

 

【75曲目】Tight Connection to My Heart (Bob Dylan, 1985)

 なんというか... これは非常に筆舌にしがたいというか、独特の風味があるというか、端的に言うとダサいですね。この曲が収録されたEmpire Burlesqueが1985年のリリースなんですが、80'sのボブ・ディランの音に何か聞くべきものがあるかというとかなり疑わしいと個人的に思っていて、そりゃ彼のバイオグラフィーにまでゴリゴリに掘り下げて聞きたい人は聞くのでしょうが、僕なんかはこの企画で紹介するために彼のディスクグラフィーを1枚ずつ聞いて行ってチェックをつけていくと80'sと90'sにはほぼチェック無しという具合になってしまいまして、慌てて何かしら話題性のある曲やアルバムがないかと探してみたところこの曲にキャッチーな話題があったというただ単にそれだけの話で紹介しとります。つっても、そのキャッチーな話題っていうのもせいぜい以下の引用程度の話なのですが。

「タイト・コネクション」はシングル・カットされ、プロモーション・ビデオも制作された。依頼したポール・シュレイダーの意向で、1985年4月20日密かに来日し、約一週間をかけてその撮影を東京で行った。六本木、赤坂、新宿でロケが行われ、倍賞美津子沢田研二佐野元春岩崎宏美らが出演したようだが、完成したものには倍賞美津子のみ見ることができる。しかし、ディランもシュレイダーも満足したものにはならなかったようである。

誰も幸せになっとらんやんけ!西側世界に広がりはじめた冷戦末期の浮かれムードのなかでも最も軽薄で激しいバブル前夜の日本。そんなのとボブ・ディランがハマるわけない。いま事後的に翻って考えてみれば自明の理ではありますが、当時手探りのなか一応やってみたのは本当に立派です。ただ、隠遁するならこのタイミングだったのではないでしょうか。よくこの時期に本格的にアーティスト生命を絶たれなかったなと思います。

 

Empire Burlesque

Empire Burlesque

 

 

【74曲目】Gotta Serve Somebody (Bob Dylan,1979)

1979年のアルバム、「Slow Train Coming」より。訳詞はこちらをご参考に。 ゴスペル的な女声コーラスの挿入、ハネ気味のバッキングなど、彼のなかの新機軸が打ち出された楽曲・アルバムだと言えます。個人的には、あまりハマってるとは思えませんが、現に彼はこの曲でグラミー賞も受賞していますし、この時期のコンテンポラリー・ブラックミュージックへの接近が、キャリア晩年のオシャレ・インディ方向に繋がっていったように考えると、大切なことだったのかもしれません。ちなみに、この時期にボブ・ディランは急速にキリスト教に接近していたと言われていて、一部ではGotta Serve SomebodyのSomebodyとは要するにGodのことであるみたいな解釈があり、たしかにそういう風にも読めなくはないです。それに対して、「Imagine」で「There Is No Heaven」とまで言ったジョン・レノンは、アンサーソングとして「Serve Yourself」を発表しています。歌詞はこちら。何にお仕えしようが勝手だが、てめえのケツはてめえで拭けといったところでしょうか。ディランが言うのが不可避的に上位のものが存在しているという、ある種の客観論のようなものを歌っている(それはGottaの有無でもわかることです)のに対し、ジョンは「だから何だ、それでもお前自身が責任をもてよ」と歌っているわけです。ジョンにマリファナを仕込んだのはディランであるという話もありますが、こういったエピソードもまたちょっとしたドラマがあってよいですね。

 

さらに、こういったやり取りから15年後、NirvanaのKurtが「Serve The Servants」を発表しています。 Serveする対象が、Somebody、Yourselfと来てとうとうServants(召使い)にまで到達しました。この辺りのアイロニーのセンスはやはりKurtは飛び抜けています。ちなみに曲もめちゃくちゃかっこいいです。個人的にはNirvanaでも1,2を争うレベルですね。Nirvanaの話をしだすと止まらないし全く別の話なので今回は割愛いたしますが。

 

 

 

スロー・トレイン・カミング(紙ジャケット仕様)

スロー・トレイン・カミング(紙ジャケット仕様)

 

 

Anthology

Anthology

 

 

In Utero

In Utero

 

 

 

【73曲目】Knockin' on Heaven's Door (Bob Dylan,1973)

Bob Dylanがサントラを手がけました映画、1973年の「Pat Garrett and Billy the Kid」 より、彼のディスコグラフィーの中でも「Like A Rolling Stone」と並び有名である「Knocking On Heaven's Door (天国への扉)」でございます。歌詞なんかはこちらをご覧ください。文字通り読めばおそらくこの映画の登場人物のことを歌っているのですが、それ以上に、より普遍的に、そしてとてもシンプルに、死について歌っているようにも思えます。バッジ=他者から与えられた立ち位置や称号も天国には持っていけないし、ただしその代わりもう銃で誰かを撃たなくてもよい、という具合でしょうか。何度も繰り返される「Knocking On Heaven's Door」というヴァースのシンプルな強度は「Like A Rolling Stone」の「How Does It Feel?」に勝るとも劣りませんね。やはりこういうたった1フレーズで楽曲を作り上げられることこそシンガー・ソングライターの必須条件のように思います。でも、それってよく言われることですがコピーライティング的な感覚に近いのかもしれませんね。そうなると本格的に資本主義感出てきますが。ワンフレーズポリティカルだなんて言葉までもありますが、本来は言葉は人を救うためにあるのだと信じたいです。話がそれましたが、そんなおセンチな脱線の仕方をしてしまうぐらい良い曲です。身につまされます。

 

Pat Garrett & Billy the Kid

Pat Garrett & Billy the Kid

 

 

【72曲目】If Not For You (Bob Dylan, 1970)

 僕と振り返るボブ・ディランの歩みシリーズです。今回は1970年のアルバム「New Morning」より「If Not For You」です。この曲もそうですが、アルバムを通してギターではなくピアノの存在感が増してきていることや、従来のブルースやフォークに加え、カントリーやジャズなどのルーツミュージックのフィーリングを感じるような、聞きようによってはカフェミュージックのようにも聞こえるスムースさをもった楽曲が多いことが印象に残ります。なお、この曲はジョージ・ハリスンとのセッションから生まれた楽曲だそうで、奇しくも昨年再発リリースがあったばかりのジョージ・ハリスンのアルバム「All Things Must Pass」にも収められています。そちらもぜひあわせてお聞きいただければ。

 

NEW MORNING

NEW MORNING