これさえ聞いときゃ間違いない!今日の1曲

聞くものに悩んだらこれを聞け

【67曲目】House Of The Rising Sun (Bob Dylan,1962)

 


 

数年前から噂はありましたが、まさか本当にとってしまうとは。ということで、このブログの本来の主旨とは大幅に離れてはしまいますが、ノーベル文学賞受賞記念・僕と振り返るボブ・ディランの歩みシリーズを始めたいと思います。いつもだったら1アーティスト1曲という原則に固執してきたこのブログですが、ではなんでそれを覆してこんなことをやるのかというと、大別すると大体3つぐらい理由がありまして、まず一つに、新規ネタを掘る時間がいまほぼ無いということ。その点、ボブ・ディランであれば先行の言及が日本語で山ほどあるのでかなりアクセスしやすい。特に彼を語る点でキータームとなるであろう歌詞の邦訳が沢山あるのが助かります。そして次に、僕がボブ・ディランをほとんど聞いてこなかったということ。いやこれが、案外聞く機会がなかったんですよね。まあポップスなんて、あれを聞いてないといけないとか、そんなオーセンティックなものであってはならないし、本来的には好きなものを好きなだけ聞くのが一番良いと思うんですが、他方でそれだけだったら今の僕が持っている知見がなかったのもまた事実であって、学生時代によくやってた、歴史を紐解くような聞き方が今のベースにあるのは確実なので、またそういうことをやってみたいと思った、というのがあります。そして最後に、学生時代にはわからなかったボブ・ディランの良さみたいなのが今聞くと何となくわかりそうになってきたというのがあります。なので、せっかくなのでこの機会に、ボブ・ディランをよく知らない皆さんと共に、彼の歩みを少しずつたどっていければ、といった企画をやってみようと思った、という次第であります。

さて、前書きが随分長くなってしまいましたが、記念すべき1曲目は1962年の彼の2nd アルバムであります「Bob Dylan」より、「House Of The Rising Sun (朝日のあたる家)」をご紹介したいなと。この曲が最初に広く受け入れられるのは、リリースから2年後の1964年の、The Animalsによるカヴァーバージョンがリリースされてからだったそうです。と言っても、元々この曲自体は、いわゆるフォークの古典としてはありがちな話だそうですが、我が国においては民謡などをイメージしてもらうとわかりやすいかもしれませんが、従来採譜などが行われて来た曲ではなく、作者不詳のまま歌い継がれてきたものだったそうで、最古の録音としては1933年のものがあるそうです。そういった点では、厳密にはアニマルズがボブ・ディランをカバーしたというべきではないのかもしれません。現にボブ・ディランも彼が多大に影響を受けたというウディ・ガスリーの1941年の同曲を聞いていた可能性は高いでしょうし、他にもブルースミュージシャンのレッドベリーなどもリリースしています。なので、この曲が受け入れられていった経緯としては、今日的な意味でのオリジナリティや作家性というよりは、彼の若干21歳とは思えない渋い嗄れ声と表現力という点、そして古典に新たな生命を吹き込むその解釈力という点だったのではないかと思います。そういえば、この時代といえば、ミュージシャンにおける作家性であったりとかオリジナリティの神話が駆動しはじめる前夜といった時代なので、こういった話自体は特段珍しいものではありませんよね。

次にですね、前フリ通り歌詞について言及しておくと、例えば「朝日のあたる家 訳詞」だなんて検索すると先述したAnimalsのバージョンも沢山でてきます。というかディランのほうは意外とまともな邦訳みたいなのが少ない。と、ここで、カバーにバージョンも何もないのでは?などと思われたかもしれませんが、実はAnimalsのバージョンとDylanのバージョンでは微妙に歌詞が違います。具体的には、「朝日のあたる家」が一体どんな建物なのか、という主題が違っており、Animalsのほうでは少年院や不良の掃き溜めのようなものがイメージされている一方で、ディランのほうでは娼館について歌われているようです。

他方で、サウンド的な話ですが、後にバンドアレンジになっていく彼の作品ですが、今作はアルバムを通して、ドラムもベースもない、完全にギターとブルースハープと歌声だけの世界です。音の構成要素というか、オケっぽい?言い方をすれば3パートしかないわけで、これは構成としてはシンプル極まりないものであって、そうなってくると個々の技量であったり味みたいなのがモロに出てくるわけです。そういう剥き出しのフォークうぃ聞いていて改めて感じたのは、広義のポップスの進化ってまんまテクノロジーの進化と完全に同じ歩調で進んできていて、時代を経るごとに技術や修練、職人性みたいなのが脱色されていった歴史なんだなということですね。もちろん、サンプリング時代、DTM時代特有の技術や修練というのは勿論重要ですし、他方では60年代以前の職人性みたいなのが今日において全く意味をなさないかというと全然そういうわけではないのですが、ただ閃きから実現までの間のタイムラグというか、技術的キャズムみたいなのがどんどん小さくなっていく歴史なんだなと再認識しました。要するに、楽器が下手でも、リズム感も音感もなくとも、ミュージシャンとして成立しうる範疇を広げていった歴史なんだと。ただどちらの時代にせよミュージシャンとして必要な共通する感性みたいなのもあって、おそらくそれがボブ・ディランのなかにもはっきりと根付いているがゆえに、いま現在に至っても現役で洗練されたサウンドを出し続けられている、といった話に今後の今ブログのエントリーとしては繋がっていくのかもしれませんね。あと、これはさらに余談にはなりますが、僕自身も様々な方向性の曲を書いたり演奏したりしてきたり、また他のミュージシャンも音楽的に様々なジャンルに手を伸ばしてみて、一方で成立して完成されたものになり、他方では方向転換に失敗したなどと揶揄される、その違いは何だろうというのをこれまで常々考えてきておりました。たとえばボブ・ディランはこの後ロックスタイルを取り入れ成功します。他にもビートルズだって実に様々なサウンドを消化していきました。そして近年でそういった越境の連続にも関わらず毎回毎回完成された作品をリリースしてきているバンドで最も成功しているのはレディオヘッドでしょう。ボブ・ディランを聞くまで、当初はその完成度の違いというのは、そのミュージシャンの、ジャンル別のサウンドの真髄やキモといったものを掴み吸収する力の違いなんだと思っていました。しかし、このボブ・ディランの1st アルバムを聞いて最も感じたのは、やはりボーカルこそが、越境に耐えうる完成度を実現できるか否かに決定的に大事なのではないかということです。つまり、ジャンルを越境しうるような普遍性を持ちつつも、他方では一度聞いたら忘れられない唯一性を持ち合わせたその歌声。ビートルズであればレノン・マッカートニーという稀代のハーモ二ストが、トム・ヨークでいえばヘンなのにめちゃくちゃ上手い、キモ上手さが、それぞれそういった域の歌声なんだと言えるでしょう。これはある意味、誰でもミュージシャンを名乗れる時代においては禁句というか、身も蓋もない事実なのかもしれませんし、そういった天才信仰のようなものはやはり覆されるものなのかもしれませんが、しかしながらこのボブ・ディランの歌声には、そういった神話性を呼び覚ましてしまうような何かが宿っていることは否定できない、そう感じた1枚だったのです。

 

 

ボブ・ディラン(期間生産限定盤)

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【66曲目】In Waves (Slow Club,2016)

ウィルコ・ミーツ・ネオアコ!といった音色のアルバム「One Day All of This Won't Matter Anymore」(タイトルも良いですね)は2009年のデビューから数えて5枚目のアルバムになります、イギリスはシェフィールド出身の男女2人組インディバンド「Slow Club」さんです。知らなかったのですが彼らはインディ界隈じゃ結構有名みたいですね。日本でもCMで使われたりもしていたそうですが、それも納得のスムースさがあります。今年のトレンドではないのかもしれませんが、インディと聞いてまずイメージするのってこの手の音だよなあ、等と思わされる、間違いのないサウンドが聞けますので、ぜひオススメ致します。

 

 

One Day All Of This Won’t Matter Anymore

One Day All Of This Won’t Matter Anymore

 

 

 

【65曲目】Instant Karma (John Lennon,1970)

Plastic Ono Band名義の最後のシングルであります、Instant Karmaでございます。今まで何気なく聞き流していたこの曲ですが、ふと思い立って歌詞を読んだらハッとさせられてしまいました。いわく、Why on earth are you there, When you're ev'rywhereであると。一体全体なんであんたはそんなところにいるんだよ、どこにだって行けるのに。そ、そう仰られましても、そうですね、実は私には、もうその手の問いかけに対して奮起するような力が、反骨心が残っていないのかもしれない。そんな気が、ここ最近ずっとどこかにありまして、そうなのだ、おれはもう死んだのだ、あとは余生なのだ、自らとの対話を放棄し、 楽なほうに楽なほうにへと流れ、インスタントな業のなすがままに、輝くことを諦めたのであり、気付いたらもう死ぬような自尊心さえ私には一切無くなっておりました。音楽が終わって、人生がはじまる。この何一つコントロールできやしない人生という名の茶番が、どうやら始まろうとしているらしいのです。一体全体、そんなことがあってよいのでしょうか。でも、聞くところによるとどうやらあるらしいのです。クソッタレ。ジョンレノンさん、もう一度だけ僕に力をくれないか。僕にとってあなたの歌声は、今までただの一瞬でも、懐メロなんかであったことはないのです。

 

 

パワー・トゥ・ザ・ピープル

パワー・トゥ・ザ・ピープル

 

 

 

【64曲目】Unity (Zone,2016)

普段は自分の元々の引き出しに加えてPitchforkをリソースにすることが多いのですが、今回に限ってはApple MusicのNew For YouにSuggestされていたもので、これがバチンと自分の趣味にハマったのでありまして、なかなかのサービス精度に驚いています。しかし、他方で紹介するにあたっては文字ベースの情報がサービス内には無いので色々と探さないといけないのが大変です。特に新人とかになると日本語の紹介が無いのは当然で、レーベルの公式などの紹介も短いとなると、あと頼りになるのは、この手の音楽だとResident Adviserとかです。なんでこんな手の内を明かすところから始めたのか自分でも不明ですが、エジンバラ出身の2人組みエレクトロデュオ・Nakedの1st LPです。プロデューサーにはOneohtrix Point Neverなどを手がけたPaul Corleyを起用。ちなみに、このブログで最近よくOneohtrix Point Neverの名前を挙げているような気がしますが、別に好きじゃないんだよなあ。さて、エジンバラの2人組だけあってグラスゴーのLuckyMeというレーベルからのリリース。一時期ほどグラスゴーの名前を聞かなくなりましたが、実はこの手のエレクトロがアツくなってきているのかもしれませんね。音的には、先日ご紹介したCrystal Castlesの新譜「Amnesty」をさらにハーシュでアヴァンギャルドな方向に振ったような感じでめちゃくちゃカッコ良いです。先日、銀杏BOYZ「光の中に立っていてね」をご紹介したときに「これからはノイジーなのがスタンダードになっていくと思ったのに全く来ていない」という愚痴を漏らしたりもしましたが、海の向こうでは少しずつそういった方向に流れていっているのかもしれません。ちなみに、散々日本語の情報が無いと愚痴った手前ではございますが、日本ではBeat Recordsが代理店となり解説つきの国内版が出ておりました。

 

 

ZONE [帯解説 / 国内仕様輸入盤CD] (BRLM35)

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【63曲目】Easy to Forget feat. Ariel Pink (Drugdealer,2016)

Salvia PathやRUN DMTとしてのキャリアを持ちますMike Collinsさんの新たな名義であるDrug Dealerの1st アルバムです。ご紹介している楽曲におけるAriel Pinkのほか、Mac DemarcoのライブバンドのメンバーやWeyes Bloodなども参加した、ローファイのような、ラウンジポップスのような、サイケのような、全体的にリラックスした粒揃いの楽曲群が並ぶ良盤でございます。個人的には初期のBeck中村一義を彷彿とさせる宅録感(もはや死語なのか?)を覚えました。この手のローファイっぽいのって一時期流行ったあと急速に聞かなくなりましたが、やっぱり良いものですな。

 

END OF COMEDY

END OF COMEDY

 

 

 

【62曲目】Let's Dance (David Bowie,1983)

今年言及しておかないと、といえばDavid Bowieもそうですね。もともとこの曲タイトルの割に全然踊れねえなとか思ってたんですが、昨今のナイル・ロジャースブームを経てから、彼をフィーチャリングした始祖ともいえるこの曲/アルバムを聞いてみたらめちゃくちゃ良かった。ファンクだったんですねー、あの頃の僕にはわからなかった。なお、この時期にナイル・ロジャースがプロデュースした他の作品といえば、マドンナの「ライク・ア・ヴァージン」、デュラン・デュランの「ワイルド・ボーイズ」等が挙げられます。さて、今作は1983年リリースということもあって、そこかしこにニューウェーブっぽさもあるのもまたニクいですね。ちなみに今作で一気にスターダムを駆け上がったギタリストはスティーヴィー・レイ・ヴォーン。ボウイを語るときに「先見性」という言葉がよく使われる所以がここにも見えますね。なお、今作はボウイのディスコグラフィの中での最大級のヒット作にあたるそうですよ。

 

Let's Dance

Let's Dance

 

 

 

【61曲目】MINT (Suchmos,2016)

今年Suchmosについて言及しておかないわけにはいかない気がしまして。ルイ・アームストロングの愛称「サッチモ」から名前を借りたという6人組ディスコソウルバンド、Suchmos。なおルイ・アームストロングの愛称は「Satchmo」なのですがその辺りのアバウトさみたいなのはこの際目を瞑りましょう。湘南で友人たちを集めて結成後、2015年にデビュー。以降、ミニ・アルバムのようなシングルのようなものを3枚リリースしており、今回紹介のものは今年7月のミニ・アルバム「Mint Condition」からのリードトラック。今年はフジロックを始め随所で引っ張りだこの彼らですが、私はこれまでにライブを拝見したことはございません。サウンド的にはお聞きの通り、昨今の音数盛り盛り競争には俺たち乗んないぜとでも言うようなマイペースでスムースなバンドベースのR&Bを聞かせてくれます。しばらく聞き続けていると段々と小癪な気がしてこなくもないのですが、しかしながらこれがウケるというのは日本の音楽シーンもまだまだ捨てたもんじゃないなというような気が正直な話してしまうのもまた事実なのでありまして、この初秋の浜辺のような温度感のR&Bサウンドを奏で続けていただきたく思う次第でございます。

MINT CONDITION

MINT CONDITION