これさえ聞いときゃ間違いない!今日の1曲

聞くものに悩んだらこれを聞け

【75曲目】Tight Connection to My Heart (Bob Dylan, 1985)

 なんというか... これは非常に筆舌にしがたいというか、独特の風味があるというか、端的に言うとダサいですね。この曲が収録されたEmpire Burlesqueが1985年のリリースなんですが、80'sのボブ・ディランの音に何か聞くべきものがあるかというとかなり疑わしいと個人的に思っていて、そりゃ彼のバイオグラフィーにまでゴリゴリに掘り下げて聞きたい人は聞くのでしょうが、僕なんかはこの企画で紹介するために彼のディスクグラフィーを1枚ずつ聞いて行ってチェックをつけていくと80'sと90'sにはほぼチェック無しという具合になってしまいまして、慌てて何かしら話題性のある曲やアルバムがないかと探してみたところこの曲にキャッチーな話題があったというただ単にそれだけの話で紹介しとります。つっても、そのキャッチーな話題っていうのもせいぜい以下の引用程度の話なのですが。

「タイト・コネクション」はシングル・カットされ、プロモーション・ビデオも制作された。依頼したポール・シュレイダーの意向で、1985年4月20日密かに来日し、約一週間をかけてその撮影を東京で行った。六本木、赤坂、新宿でロケが行われ、倍賞美津子沢田研二佐野元春岩崎宏美らが出演したようだが、完成したものには倍賞美津子のみ見ることができる。しかし、ディランもシュレイダーも満足したものにはならなかったようである。

誰も幸せになっとらんやんけ!西側世界に広がりはじめた冷戦末期の浮かれムードのなかでも最も軽薄で激しいバブル前夜の日本。そんなのとボブ・ディランがハマるわけない。いま事後的に翻って考えてみれば自明の理ではありますが、当時手探りのなか一応やってみたのは本当に立派です。ただ、隠遁するならこのタイミングだったのではないでしょうか。よくこの時期に本格的にアーティスト生命を絶たれなかったなと思います。

 

Empire Burlesque

Empire Burlesque

 

 

【74曲目】Gotta Serve Somebody (Bob Dylan,1979)

1979年のアルバム、「Slow Train Coming」より。訳詞はこちらをご参考に。 ゴスペル的な女声コーラスの挿入、ハネ気味のバッキングなど、彼のなかの新機軸が打ち出された楽曲・アルバムだと言えます。個人的には、あまりハマってるとは思えませんが、現に彼はこの曲でグラミー賞も受賞していますし、この時期のコンテンポラリー・ブラックミュージックへの接近が、キャリア晩年のオシャレ・インディ方向に繋がっていったように考えると、大切なことだったのかもしれません。ちなみに、この時期にボブ・ディランは急速にキリスト教に接近していたと言われていて、一部ではGotta Serve SomebodyのSomebodyとは要するにGodのことであるみたいな解釈があり、たしかにそういう風にも読めなくはないです。それに対して、「Imagine」で「There Is No Heaven」とまで言ったジョン・レノンは、アンサーソングとして「Serve Yourself」を発表しています。歌詞はこちら。何にお仕えしようが勝手だが、てめえのケツはてめえで拭けといったところでしょうか。ディランが言うのが不可避的に上位のものが存在しているという、ある種の客観論のようなものを歌っている(それはGottaの有無でもわかることです)のに対し、ジョンは「だから何だ、それでもお前自身が責任をもてよ」と歌っているわけです。ジョンにマリファナを仕込んだのはディランであるという話もありますが、こういったエピソードもまたちょっとしたドラマがあってよいですね。

 

さらに、こういったやり取りから15年後、NirvanaのKurtが「Serve The Servants」を発表しています。 Serveする対象が、Somebody、Yourselfと来てとうとうServants(召使い)にまで到達しました。この辺りのアイロニーのセンスはやはりKurtは飛び抜けています。ちなみに曲もめちゃくちゃかっこいいです。個人的にはNirvanaでも1,2を争うレベルですね。Nirvanaの話をしだすと止まらないし全く別の話なので今回は割愛いたしますが。

 

 

 

スロー・トレイン・カミング(紙ジャケット仕様)

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Anthology

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In Utero

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【73曲目】Knockin' on Heaven's Door (Bob Dylan,1973)

Bob Dylanがサントラを手がけました映画、1973年の「Pat Garrett and Billy the Kid」 より、彼のディスコグラフィーの中でも「Like A Rolling Stone」と並び有名である「Knocking On Heaven's Door (天国への扉)」でございます。歌詞なんかはこちらをご覧ください。文字通り読めばおそらくこの映画の登場人物のことを歌っているのですが、それ以上に、より普遍的に、そしてとてもシンプルに、死について歌っているようにも思えます。バッジ=他者から与えられた立ち位置や称号も天国には持っていけないし、ただしその代わりもう銃で誰かを撃たなくてもよい、という具合でしょうか。何度も繰り返される「Knocking On Heaven's Door」というヴァースのシンプルな強度は「Like A Rolling Stone」の「How Does It Feel?」に勝るとも劣りませんね。やはりこういうたった1フレーズで楽曲を作り上げられることこそシンガー・ソングライターの必須条件のように思います。でも、それってよく言われることですがコピーライティング的な感覚に近いのかもしれませんね。そうなると本格的に資本主義感出てきますが。ワンフレーズポリティカルだなんて言葉までもありますが、本来は言葉は人を救うためにあるのだと信じたいです。話がそれましたが、そんなおセンチな脱線の仕方をしてしまうぐらい良い曲です。身につまされます。

 

Pat Garrett & Billy the Kid

Pat Garrett & Billy the Kid

 

 

【72曲目】If Not For You (Bob Dylan, 1970)

 僕と振り返るボブ・ディランの歩みシリーズです。今回は1970年のアルバム「New Morning」より「If Not For You」です。この曲もそうですが、アルバムを通してギターではなくピアノの存在感が増してきていることや、従来のブルースやフォークに加え、カントリーやジャズなどのルーツミュージックのフィーリングを感じるような、聞きようによってはカフェミュージックのようにも聞こえるスムースさをもった楽曲が多いことが印象に残ります。なお、この曲はジョージ・ハリスンとのセッションから生まれた楽曲だそうで、奇しくも昨年再発リリースがあったばかりのジョージ・ハリスンのアルバム「All Things Must Pass」にも収められています。そちらもぜひあわせてお聞きいただければ。

 

NEW MORNING

NEW MORNING

 

 

【71曲目】All Along the Watchtower (Bob Dylan,1967)

 

 とうとう事故った!本エントリの文字無しで動画とAmazonのリンクを貼っているだけの状態のものをご覧になった方もいらっしゃるかもしれませんが、予約投稿時間を間違えていたことによるミスです。お目汚し失礼致しました。まあ文字が入ってたら入ってたでいつもお目汚ししてるんですが。さて、今回は、前回の「Highway 61 Revisited」の次の次のオリジナルアルバムである「John Wesley Harding」より、動画も貼りましたジミヘンによるカバーでも有名な「All Along The Watch Tower (見張り塔からずっと)」でございます。なお、前作と今作の間にはバイク事故に伴う隠居生活時代というのが挟まっております。その所為もあってか、前回取り上げた「Highway 61 Revisited」よりもアレンジとしては非常にシンプルで、ともすればフォーク時代への回帰とも言えるようなシンプルな仕上がりのものが多いのが印象的です。さて、「All Along The Watch Tower」の話にうつりましょう。歌詞はAll Along The Watchtower / 見張塔からずっと (Bob Dylan / ボブ・ディラン)1968 - 洋楽和訳 (lyrics) めったPOPSなどをご参考に、いくつか補足的な引用などを行って簡潔にできたらなと思います。思っているだけかもしれませんが。

 

 この曲の歌詞は、旧約聖書の「イザヤ書(21:6-9)」をもとにしており、そこにはバビロニア帝国の崩壊を予言している部分があります。そんな大昔の話を歌にしてもしょうがありませんから、これは何かの暗喩になります。バビロニアは当時の世界強国であり、「黙示録」にも触れられているように、その都市バビロンは、退廃と堕落の象徴です。となるとこの歌詞は、現代の世界強国の堕落と商業主義を批判したものだと考えられます。

 

John Wesley Harding (Reis)

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ブルー・ワイルド・エンジェル~ワイト島のジミ・ヘンドリックス<スーパー・ショック・プライス>(DVD付)

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【70曲目】Like a Rolling Stone (Bob Dylan, 1965)

書いてたもの全部消えたー!ということで「僕と振り返るボブ・ディランの歩み」第4弾です。歌詞は「洋楽歌詞和訳なんてキアイとソウル : "Like A Rolling Stone"-Bob Dylan」などをご参考に。前作よりエレキギターに持ち替え歌声までロック仕様に変化したボブ・ディランは、1965年の今作「Highway 61 Revisited」でもその基本路線を踏襲しつつ、更にピアノとオルガンという新たな要素を加え進化していきます。そしてそんな折り生まれたのが大名曲「Like A Rolling Stone」だったというわけ。リスナーに「問い」を与える曲はもれなく名曲、というか別に音楽に限らずあらゆるアートの最も先鋭的な形式が「問い」だと思っている私のような人種にとって、How Does It Feel?と繰り返し問いかけてくるこの曲はまさにその始祖だったのだなと感激いたしました。また、非常に今日的な、大変整理されていて普遍的な「ヴァース・コーラス・ヴァース」の形式もこの曲では既に採用されています。くわえて、How Does It Feel?のコーラスを追いかけてくるアル・クーパーのオルガンがまたニクい。対旋律(カウンター・メロディ)の立て方みたいなのが、一時期割と(特に邦ロック界隈?)で話されていた記憶がありますが、そのお手本のような曲でもありますね。ああどんどん冗長になっていきますが、今作において恐らくディランは一つの到達点に辿り着いたとされているっぽいです。確かに凄みのあるアルバムです。

 

Highway 61 Revisited (Reis)

Highway 61 Revisited (Reis)

 

 

【69曲目】Subterranean Homesick Blues (Bob Dylan, 1965)

はい、「僕と振り返るボブ・ディランの歩み」シリーズの3回目でございます。 今回は1965

年のアルバム「Bringing It All Back Home」より「Subterranean Homesick Blues」です。Radioheadファンの皆様はこのタイトルにピンと来てる方も多いのではないかと思いますが、彼らのアルバム「OK Computer」に収録されている「Subterranean Homesick Alien」はこの曲をもじっているわけですね。さて、まず今作で最も特徴的な事柄は何かと言うと、とうとう電化したという点にあります。で、彼の辿ってきた経緯もありこれはフォークロックであるとかどうとか話題になるのですが、その流れを追体験していると、個人的にはどっちかっていうとブルース的なフィーリングのほうが支配的なんじゃないかなとも思います。フォークの貴公子がエレキギターを手にしたのですからその衝撃はさぞ強かっただろうと思いますが、そういった大胆な変革の一方で、アレンジとしてはフォークの弾き語りのようなものも複数収められており、意外と漸進主義的な側面も見えますね。あともう一つ指摘しておきたいこととしては、今後数回にわたって同様の出来事が起こる模様ですが、従来と違って彼はこのアルバムで大胆に歌唱法を変化させているという点があります。キャリアを経て不可避的に歌声の変わるボーカリストは少なくはありませんが、その多くが段々と上手になったり下手になったり、音域は狭まったり拡がったりという理由により行われるのに比して、彼は明らかに攻めの一手として、曲調に合わせて声色を使い変えているという点はかなり特徴的だと思います。また、拍内にメロディが収まらず半ば強引に捻じ込むような歌い方は、Subterranean Homesick Bluesをお聞きいただければわかるように、今作を特徴づける大きな要素となっております。日本においては、吉田拓郎桑田佳祐中村一義などに多大な影響を与えていると言えるでしょう。一説によるとラップの始祖だとかいう話もあるけどそれはちょっと眉唾のような気もしないでもないですが。まあ話はそれましたが、いまのところ彼のアルバムで一番好きな作品がこちらだと個人的には感じております。

 

Bringing It All Back Home (Reis)

Bringing It All Back Home (Reis)