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これさえ聞いときゃ間違いない!今日の1曲

聞くものに悩んだらこれを聞け

【97曲目】Slip Away / Perfume Genius (2017)

祝福と呪詛、多幸と絶望、安寧と混乱―。この世に存在するあらゆるアンビバレンスが併存する快作/怪作であると強く断言したい。Perfume GeniusことMike Hadeasの通算4枚目のこのアルバムは、クィア達に差し込んだ束の間の希望の後に訪れた、ポスト・トゥルース時代の混乱における一つの芸術的到達地点だ。Sigur Rosのような浄化と、Vision Creation New Sunのような生の横溢、IDMフィーリングなグロテスクなビート、アシッド・フォークのような生々しく暖かな肌触り…。それら全てが入れ替わり立ち替わり拡がって包み込むように音場を形成していくのだが、常にその中核にあるのは、変声期の真っ只中の少年のようなMike Hadeasのファルセットだ。時おり伸びやかであり自由で、また時おり窒息しそうなほどに息苦しい彼の歌声が、一筆書きでこの壮大なる宗教画を描いていくのを僕らは目撃することが出来る。そのタッチは緩急に富むが、それは決して筆先を躊躇ってのことではなく、どんな角度から見てもわかる陰影をつけるためのことだ。 陰影―。そう、光があるからこそ深くなるこの存在、白と黒の間に位置するこのグラデーションこそ、Mike Hadeasと共に在るものであり、だからこそ彼はそれを描くことに全霊を捧げてきたのだろう。それは決して平易な営みではない。なぜなら、それは自身という存在の在り方を常に問われ、そして見つめ続けてきたからこそ漸く可能になる営為なのであって、そしてその上、彼がこれまでただの1度も「生」を断念しなかったからこそ、今日こうして見事に結実し、我々の元に届いているからである。そして、遂にその生は形象=Shapeから解き放たれ天と混ざり合おうとしている…。そう考えると、言わば、Mike Hadeasの生の記念碑であるのが、このアルバム「No Shape」なのだろう。 僕はこのアルバムの誕生にリアルタイムで立ち会えたことに対しては、もはや感謝という一言でしか言い表せない気持ちになっている。Mike Hadeasという一つの生が織りなした形のない壮大なる碑を、だただ祈りと共に感じることだけが、いま僕に許されたただ一つのことなのだと、強く噛み締めながら、僕は何度でも再生ボタンをクリックする。

 

No Shape [帯解説・歌詞対訳 / 国内仕様輸入盤CD] (OLE11139)

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Otherside

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