【89曲目】Black America Again Feat.Stevie Wonder (2016)
更新がすっかり滞ってしまいました。いろいろと予定が重なってしまい、しばらく多忙が続いていますが、どうにか音楽との関わりは絶やさないようにとは思っています。
さて、こちらの更新が途絶えているほんの2週間弱の間に世界は大きく変化しました。いや、そういった変化というのは、「しました」というように一過性で完了してしまうような単発ものではなく連続的なのであって、始まりや終わりなんてものは事後的に設定されるものなんだと今は感じています。つまり、私たちは、始まりも曖昧で、かつ現在進行形の、終わりの見えない大きな変化のうねりのようなものの真っ只中にいるということです。しばしば私たちは歴史を振り返る際、破局を迎えてしまう前に止めるポイントなんていくらでもあったのに、どうして誰も止められなかったんだ、などと振り返って考えがちではありますが、しかしながら実際にその大きなうねりの中にいて初めてわかることも多く、どれだけ手を尽くしても止められない慣性のようなものが存在している気が今はしていて、その最たる例がトランプ大統領の誕生であるように思います。
そしてそんな折、1991年より活動しているシカゴ出身のラッパー兼俳優のCommonは先日リリースされたばかりの「Black America Again」というアルバムのなかの同名曲で次のようなライミングをしています。
We Kill Each Other, It's a part of the Plot
昨今の状況というのは、まさに誰かが意志を持って書いたPlot=筋書きを準えているのように、一直線の方向に世界が動いているようだいうことを彼も感じているのかもしれません。このプロットの始まりがいつだったのか、それは恐らく後世の人々が定め、そしていずれ教科書に載り常識となるでしょう。ある人は911だというだろうし、またある人は1991年のソ連崩壊だというのかもしれません。ただこのプロットの結びが、破滅的な帰結ではないことだけを、心から祈っています。しかし、他方で、この現在進行形のプロットが、このまま軌道修正されることなく続いた場合にどういうところに行き着くのかが、とても具体的に想像できてしまうという実情もあります。それらを全てここに記述することはしませんが、そういった想像が現実のものとなるにつれて、事態は海の向こうの話だけではなくなっているはずだということだけは言っておかなければなりません。そうなってしまえば、僕ら自身や僕らの友人、またはその子どもたちが、七尾旅人のいう「兵士A」として、自衛隊発足後初の戦死者となる未来はかなりの確度で実現してしまっているでしょう。そして、そういった動揺が、経済不安や人種主義の脅威に怯える国民に直撃します。政権は幾度となく交代し、しばしば自民党は下野しますが、そうなったとしても、彼らが張り巡らしておいた策謀や、決定的な能力不足が理由で野党連合の政権は状況を好転させることが出来ず、政権交代が極めて短期間で繰り返されます。そうした中でますます国家としてのコントロールを喪失していき、Brexit国民投票や今回の大統領選挙でその存在が確実なものとなった「暗数」=隠れ人種主義者・ポピュリズム信奉者・または中道右派たちが、やがて隠れることなく堂々と跋扈するようになります。マスメディアは全体主義を加速させた前回の反省から徹底的にこういった「うねり」には反対し、マイノリティと堕したリベラリストの存在感を誇大に見せることでなんとか抵抗しますが、そうやって大きく見せられたリベラリストがもはや単なる蜃気楼でしかないことを人々は感じ取っています。そんな風にしていよいよ逼迫していく中で、私たちは国家としてどんな選択をするのでしょうか。政党乱立状態をスケープゴートにしてまた翼賛体制になってしまうのか、はたまた「今度は絶対に勝つ」ということを目標に徹底的にうまく立ち回ることに終始して罪なき敵対国の人々を殺めることを正当化し続けていくのか、そして最も困難な道として、非戦を貫き通すのか...。私たちの筋書きが漸くストーリー分岐するのは、おそらくこういった局面に至って初めて「問い」という形で提示されるでしょう。いや、もしかするとそういった問いすらないままに、いま現在のように、何でこうなるか誰もわからないまま、もうどうしようもないという最後のところまで行ってしまう可能性だって十二分にあるわけです。むしろ今のまま、何となく、そんなの誰が望んでいるんだと思いながらも、もう後戻りできないところまで来て初めて気付くというような「プロット」が最も現実味があるようにさえ思えてきます。
誰かが書いた筋書きをただ不可避的に準えるかのように分裂していく社会のなかで、寛容と受容、学術や文化の力を信じる美辞麗句を並べるだけのリベラリズムは無力に等しいのかもしれません。ただ、他方で、こういった状況においてニヒリズムに終始し、一段高みにいるつもりのような態度こそは最も唾棄されるべきものです。確かに、しばしばニヒリスト達が「指摘」して悦に浸るように、私たちは無力です。しかしながら、それはもはや言うまでもない「前提」なのであって、そこから何を成し遂げるか、それに全てがかかっているということをいつだって忘れてはなりません。
We are rewriting the black American story
この曲の最終盤、Stevie Wonderのこの力強いフレーズが高らかにリフレインします。この数年の間、Black American Historyの書き直し作業は非常に悲しい記述を追加することに割かれてきました。その流れは、トランプ大統領の誕生により加速してしまうのかもしれません。しかしながら、ここから何度でも、American Historyは書き直せるはずです。身分や出自に関係なく、誰もが輝かしい人生を過ごせるAmerican Dreamの国に戻れるはずなんだと僕は信じています。これまでのアメリカがその若さゆえの多数の過ちを何度でもやり直せたのは、その修正能力の高さゆえでした。彼らが本当に「Make America Great Again」というスローガンを「美辞麗句」で終わらせないためには、アメリカが本来持ち続けてきた、そういった修正能力の高さこそが今後求められるに違いありません。願わくば、私たち日本国民もその一助となれることを心から願ってやみません。
【88曲目】Blossom Dearie (Ravyn Lenae,2016)
て、天才が登場したで〜!クラシックの教育を受けて育ったそのシンガー・ソングライターは、若干17歳にして、R&B・エレクトロニカ・ソウル・ヒップホップを融合させた独特のスタイルで音楽界を一変させようとしている。シカゴ南部の不安定な地域で生まれ育った彼女は、SminoやJean Deaux、プロデューサーでもあるMonte Bookerなどの錚々たる面子を誇る音楽家集団「Zero Fatigue」の一員となり、2015年初頭には、すぐさまシカゴ地域を飛び越えて「一家に一枚」となったシングル「Greetings」をリリース。その直後には、シカゴを拠点とする有名レーベル「Three Twenty Three Music Group」と契約を交わし、そして同年8月、彼女の名をこれまでになく知らしめたデビューEP「Moon Shoes」が、Fake Shore DriveとMy Mixtapeでの先行リリースの後に全国販売され、Soundcloudにおいては優に200万回以上もの再生を記録している。っちゅうわけなんやな(公式Facebookより意訳)。
じゃあ具体的にどういう音楽から影響を受けているかというと、またまた公式Facebookより、Stereolab、Outkast、Bob Marley、Ella Fitzgerald、あと他にはErykah BaduやNASなんかの名前が上がってますね。公式Facebookが言うほど音楽界を一変させているかどうかに関しては判断を保留しておくにしても、このクロスオーバー時代においても一際ハイレベルなネオソウルを響かせてくれている17歳であることは間違いありません。ただ、この手の若き天才ミュージシャンの今後としてありがちなのが、「自分の音楽を狭いカテゴリやジャンルに押し込まないで」とか言いながら、極めて普通なポップスの範疇に収まっていく現象が多発することでありますので、今後に注視しつつ見守っていく必要があります。とりあえず誰かさっさと日本に呼んで!生で聞かせて!ジャケ写は微妙だけど他の写真はルックスも良いしきっと日本でも人気でるよ!!
- アーティスト: Ravyn Lenae
- 出版社/メーカー: Three Twenty Three Music Group
- 発売日: 2016/07/29
- メディア: MP3 ダウンロード
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【87曲目】White Heron (First Hate,2016)
はい、連続更新が途絶えましたがそういうこともありますね。デンマークの二人組、うち一人は中国人とのハーフだそうですFIRST HATEさんの2015年以来の2枚目のEP「The Mind Of A Gemini」より、「White Heron」でございます。ジャンル的にはシンセ・ポップだという紹介が多いのですが、ボーカルのせいでしょうか、いわゆるダーク・ウェーブ的な感触もかなり強く感じます。ちなみにプロデュースは、同じくデンマーク出身の鬼才・Trentemøller。この人プロデュースとかもするんですね。そういやTrentemøllerも今年新譜出してたけど聞いてなかった。なんかアンビエントのようなテクノのような生音のようなものが入り混じった何かを作る人という印象なので、彼らともばっちりハマったのではないでしょうか。フルアルバムもTrentemøllerがプロデュースしてくれたらリリースがなおさら待ち遠しいですね。
【86曲目】Give Up (American Wrestlers,2016)
はい、王道ギターインディロックです、American Wrestlersさんの2014年以来の2ndアルバムより「Give Up」をお届け。先ほど王道と言いましたが、この絶妙なハンドメイド感というか、ちょっとしたローファイ感みたいなのがインディロックの王道だと考えている時点で少し私はズレているのかもしれませんが、そんなこともお構いなく3分前後の軽快なバンドサウンドがサクサクと流れていきます。あんまり小細工もないのですが、小難しいサウンドが増えてきた昨今ではこれぐらいのほうが却って新鮮なのかもしれません。オススメです。
【85曲目】Mewo Akoma (Pat Thomas,1982)
ガーナ出身・High Lifeレーベルの重要人物であります、Pat Thomasさんのキャリアの黄金期を総括するアルバム「Coming Home」より「Mewo Akoma」をお届け。私はこのジャンルにかなり疎く、フェラ・クティぐらいしかまともに聞いたことない(もしかしてフェラを同じ括りに入れるのもあまり正しくないのかもしれない)のですが、こちらのPat Thomasさんもまためちゃくちゃ素晴らしいですね。この「Mewo Akoma」だなんて、もうまるっとRadioheadの「The King Of Limbs」の元ネタなんじゃないかと思うぐらいで、ここまで来ると彼らの得意な、再発見→再解釈→翻訳といったプロセスのうち一番最後の部分が極めて希薄なような気もしますが、しかしながらそういう風にもなってしまうPat Thomasさんによる完成度の高さが目立ちます。フェラにしてもPat Thomasにしても、まずその音像として最初に立ち上がってくるのがパーカッションですが、その次に特徴的なのは実はギターの音なんじゃないかと個人的には思っていて、King Crimsonがフェラのギターを流用したように、RadioheadはPat Thomasのギターの音を流用していたんですね〜という発見があります。さて、Pat Thomasさん自体の話というよりは、アフロ・ビートをいかにして白人の尖った人らが窃取してきたかみたいな話に紙幅を割きすぎているので少し話を戻しましょう。彼は1951年、音楽講師である父、バンドリーダーだった母の間に生まれたとあり、さらには叔父はNat King Coleとの作品でも名高いKing Onynaさんとのことで、生粋のサラブレッドなんですね。そんな血筋と環境でメキメキ才能を伸ばしたPatは、Ebo Taylorさんのバンドに加わり脚光を浴びるようになります。なおさっきから固有名詞がいっぱい出てきていて、どうやらそのいずれもがその筋じゃ恐らくマストなぐらい有名な方々のようなのですが、僕はそのほとんどを聞いたことがない。そっちもこのあと掘ってみるので許してください。その後、1980年代中頃よりロンドンを中心にヨーロッパでの活動も開始し、欧米での知名度を得ていきますが、後述するように欧米でもそこまで名の通った存在ではなかったようです。そういえば、確かフェラがヨーロッパデビューしたのも同じぐらいじゃなかったっけ、もうちょい前かな?ただフェラがエイズで早逝したのと対照的に、Patは今なお健在で、昨年にはPat Thomas & Kwashibu Area Bandとしてアルバム・リリースとそれに伴うツアーも行っております。あとすみません、今更ながら簡潔でわかりやすい解説があったのでそれを引用して結びとさせていただきます。
今回ストラットが手がけたパット・トーマスも、エボ・テイラーと並ぶハイライフの大ヴェテラン。
51年、かつてのアシャンティ王国の古都クマシに生まれたパットは、60年代ギター・ハイライフの立役者となったクワベナ・オニイナの甥っ子でもあります。
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2012-10-22
69年に名門ダンス・ハイライフ・バンドのブロードウェイ・ダンス・バンドへ参加し、ウフルー・ダンス・バンドに改名した後のイギリス・ツアーを経験、
http://bunboni58.blog.so-net.ne.jp/2012-09-18
73年に自己のバンド、スウィート・ビーンズを結成して、ソロ・シンガーとして独立しました。
「ゴールデン・ヴォイス」の異名を取り、A・B・クレンジル、ジュウェル・アッカー、パーパ・ヤンクソンとともに、ビッグ・フォーと呼ばれる人気シンガーとなった人です。とはいえ、パット・トーマスを知る人は、相当熱心なアフリカ音楽ファンぐらいなもの。
70年代のハイライフはガーナ盤LPしかなく、80年代はガーナ経済危機のため、ほとんどレコードは作られませんでした。90年代以降にいたっては、在外ガーナ人社会のレーベルから、ほそぼそとCDがリリースされるだけでしたからねえ。
欧米にディストリビュートされる作品はわずかばかりしかなかったので、パットばかりでなく、この時代のハイライフの名シンガーが、海外に紹介されることは、皆無といっていい状態でした。
【84曲目】Souvenir Shop Rock (Savoy Motel)
Clash Meets Lo-Fiとでも言うべきでしょうか、脱力感が絶妙な、ナッシュビル出身の4人組 Savoy Motelの、セルフタイトル・デビューアルバムより「Souvenir Shop Rock」をお届け。メディアによっては「70s リバイバル」だとか、「レトロ・パンク」だとか言われてますが、確かにそれも納得の昔懐かしさといいましょうか、レトロスペクティブなアプローチを意識的に行っているのはPVを見ても明らかなのではありますが、他方で楽曲を通して聞くと、そういったレトロスペクティブな引用が随所に見られるのは紛れもない事実でありながらも、トータルで受ける印象としては確実に2016年のサウンドなのがとても面白いですね。正直ちょっとコミックバンド的な人たちなのかと思ってましたが普通に粒揃いの良盤なので、ぜひオススメしたいと思います。
【83曲目】 Friends ft. Bon Iver and Kanye West (Francis and the Lights,2016)
ミュージシャンでありプロデューサーでもあるFrancis Farewell StarlightさんのプロジェクトであるFrancis and The Lightsの初となるフルアルバム「Farewell, Starlight!」よりFriends ft. Bon Iver and Kanye Westをご紹介。ちなみに、楽曲自体はChance The Rapperの「Some Friends」という楽曲からのサンプリングがベースになっていたり、客演にCashmere Catがいたりと、名前を並べただけでも相当豪華。アルバム全体の音像としては、音数をタイトめに絞ったテクノ的なものをベースに、ヒップホップやファンク、インディロックなどの種々の添え物をしてみましたという感じ。曲によってはMetafiveを彷彿とさせるような、もはやフュージョンというべきでは?とも思わされるような楽曲や、お、今度はゴスペルかな?だなんていう曲までもあり、よくよく聞くと非常にバリエーションに富んだアルバムとなっておりますので、ぜひ聞いてみてください。